胚盤胞(はいばんほう)移植について
自然妊娠では、卵は卵管内で受精し、受精卵は分割を繰り返しながら卵管内を進み、最終的に胚盤胞(Blastocyst)と呼ばれる胚となり、子宮内にたどり着きます。この過程には、排卵後約4~5日かかり、子宮に到達後、約1~2日後に子宮内膜内に着床することが知られています。
通常の体外受精・胚移植法では、自然妊娠とは違い、胚は採卵後2~3日目に子宮内へ戻しています。これはヒトの場合、胚は子宮内でも卵管内同様に発育できるため、体外で長く培養するより早めに子宮内に戻す方が良いと考えられたからです。近年体外培養技術が発達し、胚を体外で胚盤胞まで培養することが可能となりました。何度も良好な胚を戻しても着床できない方の中には、子宮内環境が悪いため胚が発育できないと推測される方もいます。もともとは多胎妊娠を減少させるため1つの胚を移植する事を考えた場合、Qualityの高い胚を胚移植する必要があり、そのための方法として胚盤胞移植(Blastocyst-ET)が考え出されました。

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自然妊娠
卵管内で受精・分割。5~6日後胚盤胞の状態で子宮に到着 -
胚盤胞移植
排卵後5~7日、体外で胚盤胞まで培養し子宮内に戻す -
通常の胚移植
採卵後培養2~3日、2~8分割卵を子宮内に戻す。子宮内で胚は胚盤胞まで発育
しかし、胚盤胞移植の適応は拡大し反復不成功例や凍結受精卵に応用され、また胚のQualityの診断方法としても応用されるようになりました。より発育した胚を移植するわけですから、この方法が適している方の妊娠率はおのずと高くなります。当院では30歳未満における体外受精での胚盤胞移植の妊娠率は胚移植あたり50%を越えるようになり、1500人以上の赤ちゃんが誕生しています。

従来の体外受精法にて、これまで妊娠に結びつかなかった方でも妊娠が可能になってきていることから、非常に注目を浴びている方法です。昨年度、当院での全胚移植症例の75%に胚盤胞移植(Blastocyst-ET)を行っています。しかし、受精卵の培養が長くなることから管理は非常に難しく、培養における高度な知識と技術、充実した設備が必要となるのはいうまでもありません。又、全ての方々に有効な方法ではなく、次に示す2つの問題点があることをご理解下さい。
胚盤胞移植の問題点
胚の発育によっては移植中止になることも
胚盤胞まで発育しないため、胚移植ができず胚移植中止になることがあります。すべての受精卵が胚盤胞まで発育するわけではありません。一般的に良好な受精卵でも体外で胚盤胞まで発育するのは約50%程度と言われています。その為、採卵および受精卵が少ない場合や、胚の質が不良と考えられる場合は、胚盤胞まで発育しない為、胚移植が中止となる例(当院では体外受精8.3% 顕微授精13.4%)があります。
胚移植日があらかじめ定まらない
一般的に胚を体外培養しますと、採卵後5~6日間で胚盤胞になりますが、それぞれの胚によって発育速度が違うため、毎日胚を観察し胚盤胞になった日に胚移植を行うようにしています。この為、あらかじめ胚移植の日を採卵後5日目か6日目か事前に決めておくことができず、皆さんには採卵後5日目か6日目のいずれかに来院できるよう、前もって待機して頂くことになります。しかしまれに6日目までに胚盤胞に発育しない場合には、胚の質が不良と考えられ着床の期待ができないので、胚移植は行いません。