哺乳動物卵子学会(東京)
ICSIにおける当院での工夫
大阪New ART クリニック
New ART リサーチセンター
ICSIは男性不妊の画期的な治療方法として登場し、多くの男性不妊患者に福音をもたらした。現在、ICSIの適応は男性因子以外に原因不明受精障害を有する難治性不妊にも拡大されてきている。それらは男性不妊の症例とは卵子状態が異なり、男性不妊と同様のICSI方法では十分な成績が得られないことがある。そのような症例に対して、最近当院で行っている2つの新しい試みについて報告する。
【Laser assisted ICSI】
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目的
Laserを用いて透明帯の一部を薄くすることによって、ICSI時の卵子に対する負担が軽減され、臨床的有用性があるかを検討した。
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対象
2004年12月から2005年12月までの間にインフォームドコンセントを行い了承を得た192周期に対してLaser assisted ICSIを行った。
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方法
Laser assisted ICSIはLaserを用いて透明帯を薄くし、その部分から穿刺してICSIを行なった。ICSIの経歴のある患者においてNormal ICSI群とLaser assisted ICSIの間で成績の比較を行った。
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結果
通常ICSIとLaser assisted ICSIの間に受精率・妊娠率・着床率において有意な差はみられなかった。しかし、過去のICSIで変性率が高かった症例(20%以上)において、通常 ICSIで39.1%、Laser assisted ICSIで26.8%と変性率が有意に低下した。
【Improved ICSI】
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目的
ミトコンドリアは細胞周期に依存して細胞内を移動する細胞内器官である。Wildingらによると、MII期の卵子では、細胞辺縁と中央に存在する2つのタイプのミトコンドリアがある。細胞辺縁に局在するミトコンドリアは受精後、前核の形成と共に前核周囲に移動するが、 Normal ICSIで受精が起こらない卵子の中には、ミトコンドリア機能不全、あるいは細胞骨格の障害が間接的に辺縁から中央へのミトコンドリア移動を妨げていることが考えられる。我々は卵子細胞膜付近に局在するミトコンドリアを吸引し、前核形成部位に供給することで、卵子を活性化させるImproved ICSIによって受精率が改善できるかどうかを検討した。
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対象
2005年2月から2005年12月までの間にインフォームドコンセントを行い了承を得た117周期に対してImproved ICSIを行った。
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方法
Improved ICSIは細胞膜を穿破後、反対の膜付近までニードルを進め、反対の膜が少し内側に吸引されるまで細胞質を吸引。卵子の中央付近で精子と細胞質を排出し、静かにニードルを抜去した。Normal ICSIで妊娠に至らなかった症例に対してNormal ICSI群とImproved ICSI群の間で成績の比較を行った。
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結果
Normal ICSI群とImproved ICSI群の間に妊娠率・着床率において有意な差は見られなかった。しかし、過去のICSIで低受精率であった症例(60%以下)では、Normal ICSIで45.5%、Improved ICSIで59.2%と受精率が有意に上昇した。
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考察
以上のような2つの方法を新しい試みとして行ったが、臨床成績において顕著な改善は見られなかった。しかし、Laser assisted ICSIは変性率が高い症例で有意に変性率を低下させ、Improved ICSIは受精率の低い症例で有意に受精率を向上させた。Laser assisted ICSI・Improved ICSI共に、まだ今後検討の余地が残されているが、様々な技術的試みを行っていくことで、妊娠に至る症例も存在する。ICSIの手技は、患者背景や卵子の状態によって使い分け、常に工夫していく必要があると我々は考えている。